マイクロフィルムの知られざる特性と情報の保存

マイクロフィルムの知られざる特性と情報の保存

(以下敬称略)

日時:2013年10月29日13:00~14:30
場所:第1会場
主催:文化資産としてのマイクロフィルム保存に関する基礎研究班/雄松堂書店/インフォマージュ
講師:
 小島浩之(東京大学経済学部講師)
 安形麻理(慶應義塾大学文学部准教授)
 野中治(元・富士フイルム(株))

概要:
フォーラム詳細
フォーラムの動画についてはこちらから→ http://www.ustream.tv/recorded/40288022

フォーラムの構成

  • 小島浩之(東京大学経済学部講師)ご発表
    「文化資産としてマイクロフィルムを考える」
  • 安形麻理(慶應義塾大学文学部准教授)ご発表
    「日本の図書館におけるマイクロフィルムの保存に関する現状」
  • 野中治(元・富士フイルム(株))ご発表
    「マイクロフィルムの知られざる特性と情報の保存」
  • 質疑応答

小島先生「文化資産としてマイクロフィルムを考える」

  • 今回の発表は科研費の中間報告で、歴史学の観点から記録というものを捉えてみたい

歴史家と資料

  • E.Hカー『歴史とは何か』岩波書店には歴史学と資料の関係が明確に書かれている。
    • 司書のための図書館史でもかならずこの話をする。
    • 人間の行動は必ずしも論理的ではない。
    • 残されている資料にはバイアスがかかっている。いかなる事実に、またいかなる順序、いかなる文脈で発言をゆるすかを決めるのが歴史家。何を真実とするか。これが歴史家の仕事である。
  • 歴史の評価は政治家ではなく歴史家が行う。
    • 記録が保存されているのは未来の世代のためである。未来の為に過去を残す、これからどうすればよいか、という示唆を与えるもの。

図書館におけるフィルムの位置づけ

  • 映画フィルムはそれじたいがオリジナルである。
  • 写真はフィルムから紙に焼き付けられたものが重要視される。
  • マイクロフィルムは複製物である。
  • 機関が所蔵しているものは、機関が消滅していけばなくなる。例:東日本大震災の市役所の資料
  • 販売されているマイクロフィルムは紙の出版物に比べて断然少ない。
  • フィルムが無くなってしまう=資料がなくなってしまう=歴史家の仕事がなくなってしまう

研究班の成果物

  • 訪問調査による実態把握(平成24年度~)ブースに詳細は展示してある。
  • 劣化したマイクロフィルムが出す酢酸濃度は70ppmにもなる。文化財に影響を与えない酢酸濃度は0.17ppm、人体への許容濃度は10ppm
  • TACベースのマイクロフィルムの劣化はビネガーシンドロームにより放出される酢酸が原因で、これは水と温度に影響されている。

安形先生「日本の図書館におけるマイクロフィルムの保存に関する現状」

  • 四年制以上の大学図書館および都道府県立図書館の全館、国立国会図書館に対して行った悉皆質問紙調査の結果報告をします。

調査概要

  • 郵送による質問紙調査で、回答方法は返送、またはウェブへの入力
  • 質問紙送付:2012年12月1日、締切:2013年1月31日(ウェブ版は2月14日)、1,437館に送付。
  • 回答数:合計902件(回収率62.8%)。内訳は国立大学図書館212、公立大学図書館76、私立大学図書館558、都道府県立図書館・国立国会図書館56。
  • 館種によって実数が大きく異なる点に注意が必要。

所蔵状況・運用

  • 予備調査4件を含めた906件の回答について分析した。52.3%が所蔵しているが、そのうち約半数では現在受け入れがない。
  • ただし、都道府県立図書館・国立国会図書館では55館で所蔵があり、47館が現在も定期的に受け入れている。
  • 次に、所蔵ありとした館(全体で474,うち大学図書館419,都道府県立図書館・国立国会図書館55)について分析した。
  • マイクロ資料の位置づけは47.5%の館が長期保存の媒体と位置づける一方で、明確な位置づけはないとした回答が41.1%見られた。
  • OPACで検索できる図書館も77.6%あるが、検索の手段がまったくない館が14.8%ある。
  • 担当者を設置している館は33.3%あるが、専任を設置している館は0.6%であった。

保存管理・種類による取り扱い

  • 空調管理は54.4%で行われているが、24時間空調なのは31.6%だった。空調で湿度が管理できるのは22.7%と少ない。
  • 乾燥剤を使用しているのは35.0%、除湿機は22.4%、湿度管理していないのが32.7%ある。
  • 収納容器は酸性紙という回答は少なく、1割に満たないが、中性紙は3割、素材がわからない場合が5割前後ある。
  • マイクロフィルムを巻くリールは有孔プラスチックが74.7%と最も多いものの、金属素材も13.9%ある。
  • フィルムがネガとポジで取り扱いに区別をしていないのが64.1%で、分からないという回答が14.8%あった。

フィルムの劣化(日常業務で気づく範囲)

  • 44.3%でビネガーシンドロームが発生、発生しているかどうかわからない館が28.7%だった。28.1%ではフィルム同士の貼りつきなどそれ以外の劣化も見られた。
  • 困っている点や気を使っている点
    • 自由記述をコーディングした結果、保存環境が最も多く論点として挙げられていた。次いでフィルムの劣化、劣化対策、リーダー(故障やメンテナンス)が多く挙げられていた。

野中氏「フィルムについて」

  • 富士フイルムで仕事をして定年退職。アナログとデジタルの接点にいた。この講演ではフィルムをもう一度見なおしてみたい。
  • デジタルの時代になぜフィルムの話をするか。
  • フィルムは画質がよく、保存性に優れている、デジタルはその点が弱い。ただしデジタルは簡便性には優れている。
  • ここで一旦フィルムを見なおしてみよう。
  • 時間とともに不確実性が増すメディア

フィルムの種類

  • マイクロフィルム:文書撮影用として使われ、一般撮影用フィルムより解像力が高い。フィルムいっぱいに撮影するためにパーフォレーションという穴がない。
  • ジアゾフィルム:アンモニアガス現像、安価。染料を使っているため光に弱く閲覧しているうちに薄くなってしまう
  • べシキュラーフィルム:マイクロフィルムのデュープに使われていた。銀行用、水やガスを使わないで熱で現像する。安価、画像が気泡による凹凸の不透明さで文字を表現。熱に弱い。

フィルムの作り方

  • エアーナイフコートを用いて行う塗布乳剤
  • フィルムのケースとフィルムの先頭に乳剤番号・スリット番号が記載されている。
    • →なにか問題があった時に乳剤がおかしかったのか調査を行うため。

フィルムの中身

  • フィルムの組成はマイクロフィルムとカラーフィルムでは違う。
  • マイクロフィルムは感光層があるが、カラーフィルムは青、緑、赤の感光層がある。
  • コダックはゼラチンを作るために牧場で牛を飼っていた。
  • 感度を高めるために乳剤を厚くしている(レントゲンフィルム20μ)、薄くする(マイクロフィルム4μ)と解像力が増す。
  • カラーフィルムの場合、銀回収するには現像液を回収しないと意味がない。
  • ハレーションとは反射により実際に当たっていない部分が黒くなってしまう現象。反射しないようにしたのがハレーション防止層。
  • 帯電防止層はマイクロフィルムが帯電(静電気が起こる)してしまうので、吸収できる層を作る。カメラのローラーでゆっくり逃がす。

ベース

  • ナイトレートベース(NC)
    • ニトロセルロースのベースで、主として映画用フィルムとして使用され、非常に燃えやすい。消防法により危険物第5類に指定されており10kg以上は保管できない。
  • トリアセテートベース
    • NCベース(可燃性)に変わって登場、TACベース
    • ビネガーシンドロームが激しく、歪んでしまう。
  • PETベースとTACベースの見分け方
    • PETベースは明るく見える(光を透過する)が、TACベースは黒っぽく見える(透過しない)。
  • 国会図書館明治期刊行図書の撮影においては日本で初めて大規模にPETベースのマイクロフィルムを使用した。

フィルムのオモテウラの区別

  • 画像は斜めに見て黒が鈍いほうで、浮き上がって見える。
  • 斜めに見て黒く光っている側がベース
  • フィルムの現像処理
    • マイクロフィルム:自動現像機10分/100ft、乳剤の厚みが薄いため高速処理、明室処理

フィルムの保存

  • ベースの劣化:高温多湿による影響、経年劣化、TACベースの加水分解(ビネガーシンドローム)
  • バインダーの劣化:ゼラチンが湿度の影響を受ける
  • フィルムの画像の劣化:傷、カビ、接着、ひび割れ、収縮
  • マイクロスコピックブレミッシュ:金属銀画像の局地的酸化によって発生。原因は高温、高湿、過酸化水素、コピー機からのオゾン
  • Agガード:酸化性ガスの影響を受けにくくする。

画質比較(A4サイズ比較)

  • フィルムはデジタルデータと比較して画素数が多い。
  • マイクロフィルムはデジタルデータと比較して画素数の桁が違う。

まとめ

  • 現在、主なフィルム製造メーカーはほぼ1社のみ
  • カラーはカラーリバーサルフィルムのみになる可能性が高い
  • マイクロフィルムも1品種にしぼられるのではないか
  • 特殊フィルムは生き残るだろう
    • →競馬はいまだにフィルムで撮影している。デジタルでは競走馬の鼻の差が見えない。

質疑

  • 質問/海外ではビネガーシンドロームについてどうしているのか
  • 回答(野中氏)/当初、映画用フィルムで起きたもので、海外では大変な問題になっており、訴訟問題が起きているほどである。
  • 質問/西アジアの写本を扱っているが、あちらでは原本を閲覧ができずマイクロフィルムを見ている。海外の国と共同して保存していく計画の予定はないのか。
  • 回答(小島先生)/多数の国と協力し、広げていくべきものである。だが日本の現状がわかっていないところがあるので、今回調査を実施した。今後の見通しの中にも加えていきたい。その地域にあった(温度、湿度等)に耐えられるフィルムが求められていると思う。
  • 質問/フィルムを作っているのが限られると、他社の競合がないため値段が高くなる。アーカイブは中小企業ができるものではなくなっていくのではないか?
  • 回答(野中氏)/仰るとおりで、フィルムの値段は高騰している。需要がなくなって、値段については作る側の企業努力で行っている。もうそろそろ値段も頭打ちなのではないか。
  • 小島先生
    残り質問があると思いますが、本日であればメンバー全員おりますので、インフォメーションブースまでお越しください。
    また、雄松堂と様々な資料を残していくべくJ-DACというプロジェクトを共同して行っているので、雄松堂さんのブースへも是非お越しください。

(執筆:赤山みほ)



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