本格化する図書館への電子書籍配信サービス

本格化する図書館への電子書籍配信サービス

日時:2013年10月31日13:00~17:00
場所:展示会場内
主催:図書館総合展運営委員会

フォーラムの内容

図書館における電子書籍配信サービスの本格的展開は、日本の図書館界と出版界をどのように変えていくのであろうか。デジタル・ネットワーク社会における図書館は、電子資料をどのように活用し、新たな利用者サービスを展開していくのか。電子出版ビジネスとの利害調整をどのように進めていくのか。  本フォーラムは、10月15日に設立が発表された「日本電子図書館サービス」の方々にお集まりいただき、お話ししていただきます。大手出版社のトップが手を挙げ、宣言したことで、にわかに〈実験段階〉から〈本格始動〉に向かったかにみえる、「図書館への電子書籍配信」。まさに当事者のお話を伺います。

  • 第1部 講演
  • 第2部 パネルディスカッション

発表者(以下敬称略):

  • 講師:高井昌史(株式会社紀伊國屋書店代表取締役社長)
  • 講師:山口 貴(株式会社日本電子図書館サービス代表取締役社長)
  • 講師:江本 功(札幌市立中央図書館館長)

  • パネラー:吉井順一(豊国印刷取締役会長〈元・講談社デジタル事業局長〉)
  • パネラー:牛口順二(紀伊國屋書店 理事)
  • パネラー:淺野隆夫(札幌市立中央図書館情報化推進担当係長)他
  • コーディネーター:湯浅俊彦(立命館大学文学部教授)

対象者:

  • 公共図書館関係者
  • 機関・企業図書館関係者
  • 大学・短大・高専図書館関係者
  • 博物館・美術館・公文書館関係者
  • その他の行政関係者
  • 出版・書店関係者
  • 学生

配布資料

  • (なし)

20131031ebook

記録(第1部 講演)

「はじめに」湯浅俊彦(立命館大学文学部教授)

  • 昨年、2年前と電子書籍の話題を展開してきた

「日本の電子書籍流通と図書館サービス」高井昌史(株式会社紀伊國屋書店 代表取締役社長)

  • 書店の経営者としての視点から
  • 出版業界は1996年の2兆6500億円をピークに、今年は1兆7000億円程度になる見込み
  • 市場が縮小する中、書店の床面積は増加傾向にあるため、書店の経営効率自体は悪化している
  • 新刊点数自体は増加傾向にあり年間8万点。返品率は40%近く。返品率の改善が業界の大きな課題となっている
  • 少子化、読書離れが起こっている中、委託販売制度における返品の増加などから、再販制度も見直すべきかの機論が続いている
  • 出版社自体も大変厳しい状況にある。新刊を出し続けるしかない
  • 大型書店の出店競争、万引き、Amazonの存在、新古書店の台頭、電子書籍への対応など、課題が山積している。色々な手を打っているが、売り上げの減少はなかなか止まらない
  • そんな中、電子書籍の時代が到来した。紀伊國屋書店は自社で電子書籍のサービスも持っており、また営業で図書館との結びつきもあるので、様々な切り口から話ができると思う
  • 2週間ほど前に設立した日本電子図書館サービス(角川、講談社、紀伊國屋書店)の経緯も説明したい

電子書籍自体の全体の状況

  • 国立国会図書館の大規模デジタル化などがきっかけに、2010年を電子書籍元年と話題に。総務省・経産省・文科省3省合同の懇談会、通称3省デジコンで電子書籍化の立ち上げのための議論が行われた
  • 紀伊國屋書店でも、自社の電子書籍サービスの構想を発表、年末にはKinoppyのサービスを開始。本格的なスタートはiPhoneやiPad向けのアプリリリースを行った翌年の6月
  • 新しい端末や電子書籍が多く出たものの、電子書籍市場そのものはなかなか拡大せず、やっと2012年後半から動き出した印象
  • 「黒船」と呼ばれるAmazonやAppleなどが台頭、大手出版社の新刊のリリースも開始、標準的なデータフォーマットとしてEPUB3.0が認知されつつある。権利関係の議論も来年の3月ごろに何らかの答申が出る

紀伊國屋書店と図書館との関わり

  • 紀伊國屋書店は大学図書館の電子化等、導入当初から関わってきた
  • 業界に先駆けて1972年の開始した情報検索サービスもインターネットの登場により、一部の専門のサーチャーから、一般層へと利用者が拡大していった(図書館のサービスメニューとして)
  • その間、CD-ROMによる電子出版も登場。紀伊國屋書店も「バイブルズ」というブランド名で様々なリファレンスブックや新聞記事データベースを制作・販売してきた
  • 1990年代後半~2000年代にかけて、いわゆる電子ジャーナルが登場した。利用実績などに基づいた課金体制で、契約が複雑化している
  • OCLCの代理店として、国際標準での図書館サービスの導入の手伝いをしている。
    • 今年の4月にOCLCは新社長に。システムの共有化を目論む。電子書籍を含む、ネットワーク上の様々な情報源、それぞれの図書館が保有するメタデータを含むデジタルコンテンツ、個々のシステムのローカルシステム依存せずに利用できるシステム「World Share」
  • デジタル資料の比重が高まる一方で、もっぱら蔵書の提供に依存してきた大学図書館も、学習支援などよりアクティブな方向に進んできた

図書館の電子書籍サービスの実際

  • 海外の電子書籍サービスは、当初学術系出版社が先行していたため、日本でも比較的早い段階から利用が開始された
  • インターネット上で調べ物をする際、日本語の書籍の内容が引っかからないのが問題。デジタル化して全文検索の対象になり、ネットワークから簡単にアクセスできれば、質・量ともに豊かになっていく
  • 紀伊國屋書店でも、2002年から図書館向け電子書籍サービス「ネットライブラリ」の国内総代理店として販売。大学図書館お中心に300館に導入
  • だが英語タイトルが中心。日本語タイトルは5千数百タイトル(全集・アーカイブものを中心に)
  • 日本語の資料がデジタル化されていないことで海外における日本研究の遅れにも繋がっている
  • 電子書籍を導入している公共図書館は十数館程度
    • 現状、電子書籍を取り入れる予定がないようだ
  • 新しい読書体験、借りられなかった人にも提供できいるようになる
  • 『本棚の中の日本』によると、北米での東アジア図書館に所蔵されている電子書籍の所蔵数、2010年段階で中国語10万点、韓国語1万点、日本語1千点。一桁ずつ違う
  • 出版社がコンテンツを提供しない
  • 不正なコピー、人気タイトルの貸し出しが出版界のデメリットになっている?

10月15日「日本電子図書館サービス」立ち上げの背景

  • 出版界、図書館界との調整が今後も重要になる
  • 著者、出版者の利益を損なわない取り組みが求められている
  • 本の制作から流通までのコストは読者の本の購入によって賄われている。本が売れなければ図書館の未来がない
  • 電子書籍の場合、所有ではなく、アクセス権、運営側で情報の追跡が可能
  • 現在、民間主導で電子書籍の枠組みを作るため、議論を重ねている
  • 著作権者に納得してもらえるモデルを作る

今後の課題

  • 現行の出版権を電子書籍にも拡大する
  • 公平な競争環境の問題
    • 海外事業者からの配信サービスに対する課税(消費税)の問題
    • フランスで決定した、送料無料はダンピング、という決議
  • 図書館の電子書籍システムのルール作り、標準化
    • 標準化が最もコストを低くできる方法が、標準化
    • 電子書籍のクオリティの向上を求めるコンソーシアムが必要

「デジタル時代における図書館、出版社、著作権の架け橋を目指して」山口 貴(株式会社日本電子図書館サービス 代表取締役社長)

  • 設立して2週間ほど
  • 図書館、出版社、著作者をつなぐ架け橋にしていきたい
  • 日本の出版市場が1兆7000億と減少傾向。
  • 電子書籍市場は2012年に大きく飛躍。2016年には2000億を予想
  • アメリカの電子書籍市場は書籍全体の150億から30億ドルを占めるように

日本でも電子書籍時代が始まっている

  • フォーマットはEPUB3.0。新刊・既刊ほとんど対応している
  • 点数、価格もまとまりはじめている
  • BtoCの市場、アメリカ、通信キャリア等、各方面からの進出

図書館の現状

  • 電子書籍を導入している公共図書館は0.53%
  • リリースされているのも、主にパブリックドメインのもの。人気作などは導入が少ない
  • 図書館に利益が行く仕組みも必要
  • 出版社としても、図書館との連携が必須と考えている

日本電子図書館サービス

  • 出版社、図書館の間に入り繋ぎ、著者にも利益が行く構造を作る
  • 図書館、利用者、出版社、それぞれが利用しやすいように支援を行っていく
    • 図書館に開館時間にとらわれず、貸し出し返却が可能になる
    • 距離的な制約もない
  • すべての関係者に喜ばれる仕組み作りを行っていきたい
  • 「知」の再生産・集積
  • デジタルネイティブ世代と図書館との接点を作りたい
  • 地域との連携も行ってきたい

「札幌市が目指す電子図書館サービス」江本 功(札幌市立中央図書館館長)

電子図書館で改善すべき点、期待すべき点

  • コンテンツの量の課題
  • 操作性、システム面での課題
  • 文芸、Howtoだけでなく、生活情報や地域の譲歩のニーズがった
  • 今後の利用希望:59%:いつでも利用できるという利便性
  • いつでも、どこでも利用、電子図書館でしか借りられないものなどに期待

平成24年の取り組み

  • 仕様検討、調達、コンテンツ、PRなどを課題に設定した
  • 平成26年には、電子書籍コーナーを新設
  • 新システムの改善ポイント
    • 利用できるデバイスを増やした
    • 電子書籍の形式の対応
    • JIS8341対応
    • 職員が電子化できる仕組み作り
  • 札幌の出版社30社に声をかけ、実感コンテンツの提供を受けた
  • 一般社団法人北海道デジタル出版推進協会を設立
    • 地域コンテンツの調達が確実なものに
  • 図書館が保有する行政資料
    • 60年分の広報誌の電子化、行政が発行したもの350点
  • 図書館自らが市民、企業の参加を得てコンテンツを作っている
    • デジタル絵本、電子書籍の作成を行った

図書館と学校の連携

  • 図書館の蔵書と学校の図書室が連携
    • 調べ学習、図書委員との連携
  • 図書館が学校の授業を手伝う

実用化したもの(まとめ)

  • 新しい電子図書館システム
  • さまざまな電子資料を提供
    • 札幌をキーワードにしたコンテンツを発信する
  • 電子書籍の特性を生かしたサービス

記録(第2部 パネルディスカッション)

パネラー

  • 吉井順一(豊国印刷取締役会長〈元・講談社デジタル事業局長〉)
  • 牛口順二(紀伊國屋書店 理事)
  • 淺野隆夫(札幌市立中央図書館情報化推進担当係長)
  • コーディネーター:湯浅俊彦(立命館大学文学部教授)

湯浅/
数多く行われた実証実験を元に、今後の地域でやるべきことを語りたい

淺野/
学校との連携など、社会に対する図書館のコミットが試されている。「本の館」ではダメ。
電子書籍であれば、生徒に図書の配布が容易に行える。
その中でも、コンテンツが揃わないと、一部の人向けのサービスになってしまう。
現状の札幌の状態を更に広げるためにも、取り組みを行う必要がある。

湯浅/
観光の分野も含め、地方として新しい取り組みを考えているか?

淺野/
学校の授業の中に地域の出版物を副読本として活用。電子書籍のメリット、一斉に資料・書籍の配布が行える。
観光コンテンツを作る場合にも、地域向け出版物に載っている地域の濃い情報を観光サイトに取り込むこともありうる。
市民参加のまちづくりとして、団体の情報発信にも使いたい。
「まち図鑑」高校生が編集委員となって、札幌に住んで良かったなと思える写真や記事を載せた。
電子書籍版には更に動画コンテンツ等が入れてある。
色々な図書館でコンテンツが売れている。
デジタルネイティブ向けに市民参加型のリアルタイムの地域資料の可能性もある

湯浅/
出版社の視点から、昨今の図書館の動きをどう見ているか。

吉井/
出版社の最終防衛ラインとしては、作者を発掘することにあると考えている。
最近だとブログや、元々ニッチを狙っている人を地域図書館が出版社に紹介して、プロデュースしていくという流れも考えられる。

牛口/
現時点で、新会社に関してはまだ決まっていない点が多い。
今回の会社の大きな役割として、需要の多い出版社の出版物から取り扱い始めたい。著者の納得する形で調整を行う。
出版社と著者の間に紀伊國屋が入ることで、クッション役になる。

湯浅/
もはや電子データを駆使しないと研究が成り立たない。
ユーザーの視点では、出版社がサービスを行うことに対して期待がある。
豊富なタイトルの提供を期待しているが、各出版社はどういう戦略なのか。

吉井/
日本の出版社4000社ほどが2兆円の奪い合いをしている。
それぞれの出版社のコンテンツの事情が違う。
「欲しいタイトルがないから利用しない」という状態になっているのは、出版社の怠慢。
もちろん、紙以外、デジタルデータに関しての権利を持っているわけではない。
また、各図書館に1冊ずつ売れればOKというところと、何万冊も売るところの事情が違う。
そもそも、それぞれニーズがあるのか。物語を売る大手出版社が図書館に絡めるならそれも考える必要がある。
児童書などは、読書のきっかけになるので、注力していきたい。

湯浅/
日本出版学会において、それぞれの現状と課題について話したことがあった。
なぜ出版社が図書館に対してのアプローチ、ジャパンナレッジは確かにすばらしい仕組み。
だが一般書籍については弱かったが、ようやく会社設立までこぎつけた。
過去、難しいといわれていた電子書籍の話がどうして可能になったのか?

(VTR「おはよう日本」)

吉井/
無料に見えるけれども、ビジネスモデルとして成り立つこともあるから。
コンビニに関して立ち読みを許しているところには、深夜もにぎやかにすることで防犯効果も狙うというニーズも。
著者にとっては商品というより作品、出版社にとっては商品というよりも財産、図書館にとっては蔵書。
時間の取り合いを図書館、書店、出版社それぞれが行っている。

牛口/
電子書籍そのもののビジネスが出版社が避けていた問題が薄くなってきた。
図書館との本当の出会いの重要さが大事。
エンターテイメントの分野からも本が阻害されるのに危機感がある。

湯浅/
日本の出版社は、基盤が整備できたからやる、というよりも、他社への危機感から行っている印象。
(AmazonやGoogle、Appleなど、いわゆる「黒船」)
その段階で焦って行ってしまったことで、弊害が起こっていないか。

吉井/
講談社社内では、「黒船」ととらえていない。「鉄砲伝来」、良いものと捉えている。
電子書籍を活かす方向性で考えていた。だが、やらずに済ませていた。
ただ、近年守っているだけでもいられない状況になったため、動きがあった。

話は変わるが、1991年、韓国で経済危機、韓国人がオリジナルの漫画を描き始めるようになった。初版1万部で食っていけた。
そんな中、サムスンを抜けた人間などが、貸本屋を始めた。結果、国内で「本は買うものではない」という風潮により韓国の漫画家に収入が入らず、激減してしまった。
そういったことで新しい才能が入ってこないという状況になるのはまずいと考えている。

湯浅/
「おはよう日本」の映像で角川会長と淺野さんが話していた内容をもっと詳しく。

淺野/
「色々な手がある」とは話したが、実際、図書館で入れるべき本があり、それにターゲットを絞るなど。
それぞれの書籍が利用のされ方も自然に決まってくるのではないかと思っている。

湯浅/
大学として定番の本が電子化されると助かる。図書館を通して出版社に電子化を働きかけている。
単行本の場合、利用者が必要なものを電子化してほしい。
必要なものであればお金も出せる。漫画とか小説だけではなくて、図書館ならではで必要な本を扱おうとしているから。

淺野/
札幌市役所内でも、国会図書館の取り組みを待てばいいのにという意見もあったが、

やる必要があるのはその先のこと。

湯浅/
小平市が電子書籍の利用を巡って、という報告がある。
国会図書館の取り組みまで待つ、というスタンス。
それだけで良いのだろうか?
他のビジネスモデルを模索する必要があるのではないだろうか?

淺野/
その他のビジネスモデル。やってみないとわからない。

吉井/
ニーズはどこに存在するかわからない
いわゆる自炊屋さんに話を聞いた。
客は蔵書ではなく、Amazonからそのまま送られてくる。
最新の書籍でも電子書籍へのニーズが確かに存在している。

牛口/
従来書籍に触れられなかったユーザー層にも届けられる可能性が見えた。
電子書籍が本当にビジネスとして成り立つかどうか、やっと見えてきた。
図書館サービスにおいても、ビジネスといて成り立たせられるか、策を考える必要がある。
図書館が市場でビジネスが回っている土台があるが、日本の学術系出版社でも、図書館のみに対してだけでは経営が成り立たない。
個人ユーザーも相手にする必要がある。
電子ジャーナルの導入に際しても、価格モデルも各社バラバラで選ぶのが大変だった。
そのあたりの不便な点も改善していく。

湯浅/
今後のビジネスモデルはどうなるのか?

牛口/
あくまで案の一つだが、基本的には紙の本と同じで、貸し出しに関しては1冊のアクセス単位。もしくは売り切り(長期アクセス権)モデル。

湯浅/
利用者側としてはどうか。

淺野/
電子書籍に関して、館内で厳格な条件の取り決めはしていない。
フレキシブルに対応する。

湯浅/
所蔵から利用(権)に変わることが、今後の図書館のあり方を大きく変えるのではないか?
急に利用できなくなる危険性があるが、どう考えているか。

淺野/
問題だと考えている。解決策を考えている。

湯浅/
電子書籍の有料化に関する言及もあるが。

淺野/
図書館法の精神から、有料化は避けたい。税金の使っているので
利用者の納得する付加価値があれば、有料というのもありうる。

湯浅/
雑誌や年間類の逐次刊行物のデータベース契約が有料モデルに関わってくる。
何かそれに関する議論は出てるか。

吉井/
デジタルデータは永遠ものですかね?
『絶版100冊』今読める機会があるか?
結局残るのは紙じゃないの?と思う。
CD-ROMは媒体としては読めないんじゃないか?
今後はアトム(紙)とビット(電子)の住み分けが起こると考える。

牛口/
そもそもデジタルデータ、デジタルアーカイブの保存を図書館が行う必要があるのだろうか?
利用と保存を切り分けたほうが良いのではないかと思っている。

牛口/
デジタルならではの課金形態がある。
利用権をあらかじめ無料で確保して、実査に利用があった時点で課金をするモデル。

淺野/
そのやりかたは有用だと思う。
棚には置いてあるけれども、利用するまで料金がかからないモデルならアリ。

湯浅/
絶版するので、発売後すぐに購入しなければならない本はあるが、
デジタルならそういったように買わなくても問題なくなる。
日本の文献が電子化されていないため、海外の研究者の研究が滞る。日本の電子書籍の利用のしやすさはどうか?

フラッヘ氏(ベルリン国立図書館):/
ヨーロッパの立場から見ると、日本の電子書籍化は遅れている。中国のイーボックスは何千冊も入っている。日本の電子書籍はコレクションに入っていない。海外の研究者は待っている。フルテキストデータならOPACなどから取り出すこともできるので、たくさん電子書籍を出版してほしい。現代の書籍はデジタル制作でテキストデータもあるはずでしょ。なぜできないのか。学術的な本は紙かどうかよりも、テーマによって売れるか決まる。
そろそろ日本の出版会が電子書籍化を進めてくれないと、日本学ができなくなる。

吉井/
出版社のワークフローが紙の出版前提になりすぎている。
中国はEPUB2.0で良いと言っているが、
日本や台湾などはEPUB3.0に。
未だにUTF-8、HTML、CSS3を使った構造化された文書を否定する人がいる。
出版社の一部の文科系のこだわりが、電子書籍化を阻んでいると個人的に思っている。

淺野/
電子書籍は郵送サービスなども含め、高齢者に対する幅広いケアの一つになる。
電子書籍の実証実験に参加した若者のなかに、図書館のサービスを利用していくうちに書店に行きたくなった、という話があった。
借りてよし、勝ってよしのサービスがあっても良いのではないかと思った。

牛口/
現実問題として、印刷限定の現在のワークフローでは、デジタルデータからもテキストデータが抽出できない。
過去の遺産のデジタル化のコストが課題。

吉井/
標準化という形でEPUB3.0ができたが、その中でも出版社ごとに方言が起こっている。

湯浅/
アメリカのOverdrive社の取り組みについて話してほしい。

ホシナ氏(メディアドゥ)/
Overdrive社によって、公共図書館に仕組みが入っている。
IDを持った地域の人間であれば、Overdriveの持っているデータにどこでもアクセスできる。

吉井/
短期間で導入するという意味で、既存のものを使っていくであろうこともある。Overdrive社を日本で使う可能性もある。
ライセンス管理、課金の仕組み等、確認することはあるが、スピード感を持って進めるには可能性としてはある。

牛口/
条件に合うのであれば、仕組みとして採用する可能性がある。別の問題として、図書館向けの電子書籍のサービスが1つになるのか、複数を使い分けるのが前提。

吉井/
電子サービスだけなら運用できるが、既存の紙のシステムと連携できるのか、という問題もある。

淺野/
紙と電子を同じように管理できるようにならないと(基幹システムとの連携)、利用が厳しい。
利用者が意識せずとも、一元的に読めるシステムが必要。

湯浅/
従来の所蔵資料を検索できるだけではなくて、他の図書館のデータを含め、論文などの情報にもアクセスできることが求められている。
11月22日の全国図書館大会福岡大会の第9分科会で話す予定の内容を、説明してほしい。

吉野氏(荒川区立南千住図書館)/
今の学生がアメリカのように自宅で検索できるデジタルメディアと接触するようになった。
通常の書籍とは別に電子書籍の予算を組み、見つからない本は個人で買う流れを作り、出版社に利益を保障する関係を作りたい。
このまま行くと日本研究が中国語研究に乗っ取られるのでは。クールジャパンと言っているなら、海外の研究者向けに電子書籍を出していかなければならない。
電子書籍の支払い体制に関しては、まず始めることを重視したい。その上で話し合いの場所を持っていきたい。

湯浅/
大会の意図とは。電子書籍推進のガイドラインが足かせになっているのではないか。
アメリカでは利用だけでなく、所蔵についての規定もあるが。

吉野/
足かせにするつもりは毛頭ない。
出版デジタル推進機構から、「図書館は個別に言ってくるが、図書館が何を目指しているのかが見えない」という指摘がある。
電子書籍を機にもう少し方向性を真剣に考えたい。目的を一致して進めていこうという意識から。

吉井/
実際に、方向性が見えないのでガイドラインは欲しい。

吉野/
電子化によって、地方の出版社の販路拡張の手段にもなりうる。
電子化をプロデュースするということが地域に貢献することにもなりうる。
絶版本に関してもビジネスチャンスがあると考える。

湯浅/
電子書籍も図書館の新たなサービスとして提供できるようになったのでは?
公共図書館のコレクションに関しては、商業出版物と非商業出版物の両方で考えることができるようになった。
広報さっぽろなど、地域の情報を地峡するメリットは。

淺野/
調べ物は電子書籍が向いている。小説なら紙がいいなど、使い分けができる。
メリットに応じてサービスを提供していく。

湯浅/
新しい会社に役立てられそうなところはあったか。

牛口/
供給者側のビジネスモデルが1つになつは限らない。複数のビジネスモデルを一つものに包含、または他社との住み分けになるかもしれない。
それぞれのサービス、商業と公共サービスの住み分けをする新しいモデルを作っていきたい。

湯浅/
図書館の方で、新会社への希望があれば。

坂上(枚方市立中央図書館)/
図書館向けの電子書籍貸し出しサービス、DMMのようなレンタル会社がやった方が良いのではないのか、とも思った。

牛口/
BtoBtoCというのが位置づけ。公共図書館向けサービスとしているが、病院など、公共図書館以外経由でエンドユーザーに使ってもらう手はある。

吉井/
何世代も読み継がれていくサイクルなど、元々出版社は儲かる構造ではない。現在は更に厳しくなっている中、新しいやり方が求められている。
叩かれながらも、赤字も出さず、大きな利益を上げずに続けていくことになることが基本になる。

湯浅/
実証実験はそろそろもういい。早速新会社とお仕事しましょうよ。

淺野/
大事なことはリアリティ。買う前提で実際に電子書籍の予算は確保している。そうならないと前に進まないというのがこの2~3年でわかってきた。
コンテンツを用意してくれれば、運用できる。
市長からも熟慮も求められている。利用状況の分析をしながら行っている。
全国で同時多発的に始めていければよいと思う。

湯浅/
最後に皆さんから。

牛口/
来年度には外部に見せられるようにしたい。

吉井/
拙速でも前に進めばよいと思っている。
紙の精緻な世界とは違う世界で、紙も守りつつ進めていきたい。

湯浅/
このような形で今後も新しい価値観を共有していきたい。

フォーラムを見た感想

今回の講演・ディスカッションでそれぞれの課題が浮き彫りになったと感じました。
全文検索を可能にするため、EPUB3.0を利用する制作ワークフローに変える必要性だったりとか、
大学図書館の電子書籍のシステム導入、公立図書館の電子書籍貸し出しのプランなど、
具体的な要望まで出ていているものもありますので、各自持ち帰って共通の課題とできる機会になったと思います。
また、地方の公立図書館の取り組み事例として、札幌市立中央図書館が行った地元出版社との連携、
地域の冊子などのデジタル化など、そのままノウハウとして取り入れたい事例もありましたので、
今後も是非こういった事例を紹介していただきつつ、課題と手法を共有しつつイノベーションを起こしていきたいと感じました。

(執筆:中村拓也)



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